シングルエリアOSPFを構築する

 レイヤ3スイッチは、もちろん、ルーティングプロトコルをサポートしています。ここでは、ダイナミックルーティングを行うためOSPFを使用してみます。下の図のように構築していきますが、見てお分かりのようにループ構造になっています。全てのレイヤ3スイッチの設定が終わるまでは、配線を行わないでください。

近接関係

 OSPFでは、ルーティング情報を共有するために、近接関係を結びます。この近接関係は、adjacency(アジャセンシ)と呼ばれます。自分が接続されているOSPFネットワーク上で、隣接関係が確立されると、リンクステート情報を交換します。

例えば、下の図のように5台のルータがある場合、10の隣接関係が必要になります。

n 台のルータがあれば、n×(n-1)÷2 の隣接関係が必要となります。

 と言うことは、10台ルータがあれば、45の隣接関係が必要になることになります。これだと、ルータの数が増えれば増えるほど、よりたくさんの隣接関係が必要になってきます。

 隣接関係を確立して、全ての隣接ルータとリンクステート情報を交換したとすると、オーバーヘッドがすごいことになってしまいます。

DR、BDRの選出

そこで、OSPFでは、次の3種類のネットワークを自動的に認識し、DR、BDRを選出するようになっています。

※DR(designated router): 「代表ルータ」と呼ばれています。
※BDR(backup designated router: 「バックアップ代表ルータ」と呼ばれています。
※DROTHER : DR、BDRに選出されなかったルータです。

  • ブロードキャストマルチアクセス: イーサネットなど
  • ポイントツーポイントネットワーク: PPP、HDLC
  • 非ブロードキャスト マルチアクセス(NBMA): フレームリレーなど

 ブロードキャストマルチアクセス、非ブロードキャスト マルチアクセスでは、DR、BDRの選出を行い、ポイントツーポイントネットワークでは、DR、BDRの選出は、行われません。

 DRは、ブロードキャストセグメント内の全ての他のルータと隣接関係を結び、セグメント内の他のルータは、自分のリンクステート情報をDRに送信します。もし、DRに障害が起こったとしてもBDRがDRの役割を引き継ぐようになっています。

 DR、BDRを選出することによって、リンクステート情報の交換でのオーバーヘッドを減らし、帯域幅を節約するようになっています。

 ちなみにDR、BDRを選出することによって、5台のルータ環境では、DR、BDRは、下の図のように、LSAを受信するようになります

 今から、構築するネットワークは、イーサネットなのでセグメント内で、1台ずつDR、BDRが選出されます。DR、BDRの選出される基準ですが、優先度(PRIORITY)とROUTERIDで決まります。

 DRの選出は次のルールで決まります。ただし、必ずしもこのルールでDR、BDRが選出されるわけでは、ありません。ルータ(レイヤ3スイッチ)の電源を入れるタイミングも影響してきます。OSPFのプロセスが起動するまでの間に、既に他のルータ(レイヤ3スイッチ)がDRに選出されている可能性があるからです。

DRの選出ルール

1.優先度が一番大きいものから、DR、BDRの順に選出される。

PRIORITY=0~255で、数値が大きいほど優先度が高くなります。値が0の場合はDRに選出されません。

2.優先度が同じときは、ROUTERIDが大きいものから、DR、BDRの順に選出される。

 IPアドレスの番号が、大きいものがROUTERIDになります。アクティブインターフェイスが2つあり、それぞれ「192.168.1.1」、「192.168.1.2」が振られている場合、「192.168.1.2」がROUTERIDになります。

※ROUTERIDは、自身の装置のインターフェイスに振られたアクティブなIPアドレスの中でIPアドレスの中で最も大きなものが選択されます。

 OSPFの安定性を確保するために、常にアクティブインターフェイスが存在するようにしておくために、ループバックインターフェイスを設定する場合もあります。その場合は、DR、BDRの選出が少し変わってきますが、ここでは割愛します。

エリアの概念

 OSPFネットワークでは、小さなネットワークを1つのエリアとして設定し、複数のエリアをエリア0(バックボーン)に接続することで、ネットワークを階層構造に構築することができます。このエリアを定義する設計アプローチによって、ネットワークの変化をエリア内に留め、パフォーマンスを向上させることができます。

 各エリアは、必ずエリア0(バックボーン)に接続しなければなりません。複数のエリアを接続するOSPFネットワークのことをマルチエリアOSPFと言います。ここでは、エリア0(バックボーン)のみのシングルエリアOSPFを構築することにします。

 少し、前置きが長くなってしまいましたが、次の「OSPF(シングルエリア_その2)」で実際に、シングルエリアOSPFを設定します。まずは、DR、BDRの選出にROUTERIDがどのように影響するかを検証していきます。