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演習ファイルのダウンロード
ファイルは Packet tracer Version 8.2.1 で作成しています。古いバージョンの Packet Tracer では、ファイルを開くことができませんので、最新の Packet Tracer を準備してください。
ネットワークの構成を Packet Tracer で一から設定していくのは大変かと思います。「ダウンロード」から演習で使用するファイルのダウンロードができます。ファイルは、ウイルスバスターでウイルスチェックをしておりますが、ダウンロードは自己責任でお願いいたします。
STP:等価コストパスが複数ある場合:最小の送信元BID
ルートポート、指定ポートの選出には、ルートブリッジへのコストパスに基づいて選出されるようになっています。
しかし、ルートブリッジへの等価コストパスが複数ある場合は、どうなるのでしょうか?
スイッチにルートブリッジへの等価コストパスが複数ある場合は、以下の①~③のルールにしたがってポートを決定するようになっています。①→②→③の順にルールを確認していきます。
- ①最小の送信元BID
- ②最小の送信元優先度
- ③最小の送信元ポート番号
それでは、下図のネットワーク構成を用いて解説していきます。

プライオリティを変更する
プライオリティを変更するには、グローバル設定モードで、「spanning-tree vlan {VLAN番号} priority {プライオリティ値}」コマンドを使用します。
プライオリティ値には、4096の倍数を指定します。
Switch(config)#spanning-tree vlan {VLAN番号} priority {プライオリティ値}
プライオリティ値: 0~65535の範囲で設定します。
S1スイッチのプライオリティを変更します。
S1(config)#spanning-tree vlan 1 priority 24576
S1(config)#end
S1#copy run start
S1スイッチのプライオリティを変更してしばらく待つと、下図のように、S1スイッチがルートブリッジになり、S2のF0/2が代替(ブロック)ポートになります。

その理由について解説していきます。
ルートブリッジの選出
ルートブリッジは、最小のBIDを持つスイッチが選出されます。
BIDは以下の項目で構成される値です。
BID = プライオリティ + VLAN ID + MACアドレス
S2スイッチ、S3スイッチ、S4スイッチのプライオリティはデフォルトで32768となっています。S1スイッチのプライオリティを24576としたため、BIDが最も小さくなるためルートブリッジに選出されます。
ルートポートの選出
ルードブリッジが選択されると、次にルートポートを選択します。このルートポートは、ルートブリッジ以外のすべてのスイッチで1つ選択されます。
ルートポートを選択するには、まず、ルートブリッジへのルートパスコストを求める必要があります。
ルートパスコストの計算
ポートコストは下表のように定義されています。
| リンク速度 | ショートパスコスト 802.1D規格 | ロングパスコスト 802.1W規格 |
| 10 Gbps | 2 | 2,000 |
| 1 Gbps | 4 | 20,000 |
| 100 Mbps | 19 | 200,000 |
| 10 Mbps | 100 | 2,000,000 |
シスコのスイッチは、デフォルトでIEEE 802.1D規格(ショートパスコスト)が使用されます。
ルートポートは下図のように選出されます。

ここで、問題が発生します。
それは、S2スイッチから、ルートブリッジへのパス1のコストパス値とパス2のコストパス値が同じ値になるという問題です。
パス1 = 19 + 19 = 38
パス2 = 19 + 19 = 38

最小の送信元BID
そこで、隣接するS3スイッチとS4スイッチのBIDを用いてタイブレークします。
「最小の送信元」というのは、S2スイッチへBPDUを送信する隣接スイッチという意味です。
- S3のBID ・・・ 32768 + 1 + 0060.2FE9.59A3(S3のMACアドレス)
- S4のBID ・・・ 32768 + 1 + 0001.437B.7450(S4のMACアドレス)
S4スイッチのBIDの方が小さいため、S4スイッチに隣接するS2スイッチのF0/1がルートポートになります。
ルートポートは下図のようになります。

指定ポートの選出
指定ポートの選出ルールは以下のとおりです。
- ①各セグメントごとに1ポートが選択される。
- ②ルートブリッジ上のすべてのポートが指定ポートになる。
- ③セグメントの片側がルートポートである場合、反対側が指定ポートになる。
②③のルールに基づき下図のように指定ポートが選出されます。

ルートポートがない場合の指定ポートの選択
S2-S3間のセグメントには、ルートポートがありません。
②③のルールが適用できないため、「①各セグメントごとに1ポートが選択される」ルールを適用することになります。
それでは、どのようなルールで指定ポートを決定するのでしょうか?
ルートブリッジへのパスコストを比較
まず、ルートブリッジへのパスコストを比較します。
S3スイッチの方がルートブリッジへのパスコストが小さくなります。
最終的に下図のように指定ポートが選出されることになります。

代替(ブロック)ポートの選出
最後に、代替(ブロック)ポートを選出します。
ルートポート、指定ポートの役割がないポートが代替(ブロック)ポートに選出されます。

S2スイッチのF0/2ポートが代替(ブロック)ポートに選出されます。
このように、等価コストパスが複数ある場合、まず、最小の送信元BIDを比較して決定するようになっています。
