このページで解説している内容は、以下の YouTube 動画の解説で見ることができます。
演習ファイルのダウンロード
ファイルは Packet tracer Version 8.2.1 で作成しています。古いバージョンの Packet Tracer では、ファイルを開くことができませんので、最新の Packet Tracer を準備してください。
ネットワークの構成を Packet Tracer で一から設定していくのは大変かと思います。「ダウンロード」から演習で使用するファイルのダウンロードができます。ファイルは、ウイルスバスターでウイルスチェックをしておりますが、ダウンロードは自己責任でお願いいたします。
STP:プライオリティの変更 その1
STPにおいてプライオリティを変更した場合の動作について確認していきます。
ネットワークの構成は、下図を用います。
現在、S2スイッチがルートブリッジに選出されており、S1のF0/2ポートが代替(ブロック)ポートとなっています。

ルートブリッジは、最も小さいBIDを持つスイッチが、ルートブリッジに選出されます。

BID = プライオリティ + VLAN ID + MACアドレス
ということは、スイッチにプライオリティ(デフォルトは32768)を設定していない場合は、拡張システムIDも同じ値になるため、MACアドレスが最も小さいスイッチがルートブリッジに選出されることになります。
つまり、スイッチ本体のMACアドレスの値によって、ルートブリッジが決まってしまうことになります。それだと、柔軟性がありませんよね!
そこで、スイッチのプライオリティを変更することで、意図的にルートブリッジを決めることができるようになっています。
プライオリティを変更する
プライオリティを変更するには、グローバル設定モードで、「spanning-tree vlan {VLAN番号} priority {プライオリティ値}」コマンドを使用します。
プライオリティ値には、4096の倍数を指定します。
Switch(config)#spanning-tree vlan {VLAN番号} priority {プライオリティ値}
プライオリティ値: 0~65535の範囲で設定します。
S1スイッチのプライオリティを変更します。
S1(config)#spanning-tree vlan 1 priority 24576
S1(config)#end
S1#copy run start
S1スイッチのプライオリティを変更してしばらく待つと、下図のように、S1スイッチがルートブリッジになり、S3のF0/2が代替(ブロック)ポートになります。

STPループ防止プロセスの解説
ここからは、なぜ、S1スイッチがルートブリッジになり、S3のF0/2が代替(ブロック)ポートに選出されたのかを解説していきます。
STPでは、以下の4段階のプロセスを経てループのないトポロジを完成させます。
- ルートブリッジの選出
- ルートポートの選出
- 指定ポートの選出
- 代替(ブロック)ポートの選出
ここでは、「1.ルートブリッジの選出」から「2.ルートポートの選出」までを解説します。
ルートブリッジの選出
下図のネットワークで、ループとなっている個所は、S1スイッチ、S2スイッチ、S3スイッチ間のループです。
ループ状にあるS1スイッチ、S2スイッチ、S3スイッチのポートの役割を見ていくことにします。

ルートブリッジは、最も小さいBIDを持つスイッチが、ルートブリッジに選出されます。

BID = プライオリティ + VLAN ID + MACアドレス
S1スイッチのプライオリティを「24576」にしたので、S2スイッチのBIDが最も小さい値となります。
そのため、S1スイッチがルートブリッジに選出されます。
S1スイッチで「show spanning-tree」コマンドを実行して確認してみます。
S1スイッチの「show spanning-tree」コマンドの出力
S1#show spanning-tree
VLAN0001
Spanning tree enabled protocol ieee
Root ID Priority 24577
Address 0060.2FE9.59A3
This bridge is the root
Hello Time 2 sec Max Age 20 sec Forward Delay 15 sec
Bridge ID Priority 24577 (priority 24576 sys-id-ext 1)
Address 0060.2FE9.59A3
Hello Time 2 sec Max Age 20 sec Forward Delay 15 sec
Aging Time 20
Interface Role Sts Cost Prio.Nbr Type
---------------- ---- --- --------- -------- --------------------------------
Fa0/2 Desg FWD 19 128.2 P2p
Fa0/1 Desg FWD 19 128.1 P2p
Fa0/3 Desg FWD 19 128.3 P2p
黄色のマークから、S1スイッチのMACアドレスが確認できます。
ピンクのマーカーからは、ルートブリッジのMACアドレスが確認できます。この値はS1スイッチと同じ値です。つまり、S1スイッチがルートブリッジであるということを示しています。
緑色のマーカーからプライオリティが24576に変更されていることが確認できます。24577となっているのは、システム拡張IDとして「1」が加算されているためです。
S1スイッチがルートブリッジとなるわけです。

ルートポートの選出
ルードブリッジが選択されると、次にルートポートを選択します。このルートポートは、ルートブリッジ以外のすべてのスイッチで1つ選択されます。
ルートポートを選択するには、まず、ルートブリッジへのルートパスコストを求める必要があります。
ルートパスコストの計算
ポートコストは下表のように定義されています。
| リンク速度 | ショートパスコスト 802.1D規格 | ロングパスコスト 802.1W規格 |
| 10 Gbps | 2 | 2,000 |
| 1 Gbps | 4 | 20,000 |
| 100 Mbps | 19 | 200,000 |
| 10 Mbps | 100 | 2,000,000 |
シスコのスイッチは、デフォルトでIEEE 802.1D規格(ショートパスコスト)が使用されます。
※10Gbps以上のリンクを使用する場合は、IEEE 802.1W(ロングパスコスト)規格を使用することが推奨されています。
S2のルートポートの選出
S2のルートブリッジへのパスは下図のとおり、2つあります。

ルートパスコストは、以下のようになります。
パス1 = 19
パス2 = 19 + 19 = 38
コストが最も低いパスが優先されるため、パス1の起点となるS2のF0/1ポートがルートポートとなります。
S3のルートポートの選出
S3のルートブリッジへのパスは下図のとおり、2つあります。

ルートパスコストは、以下のようになります。
パス1 = 19
パス2 = 19 + 19 = 38
コストが最も低いパスが優先されるため、パス1の起点となるS3のF0/1ポートがルートポートとなります。
S4のルートポートの選出
S4スイッチのF0/1は、ルートブリッジへの唯一のパスで、最適であるため、ルートポートとなります。
最終的にルートポートは下図のようになります。

「3.指定ポートを選出」「4.代替(ブロック)ポートの選出」については、次のコンテンツ「STP:プライオリティの変更 その2」で解説していきます。
