事前計算攻撃

事前計算攻撃

 事前計算攻撃(precomputation attack)は、攻撃者があらかじめ大量の計算を行っておき、その計算結果を保存しておくことで、実際の攻撃時に高速かつ効率的な攻撃を行う手法のことを指します。

 事前計算攻撃は、例えばパスワードクラッキングのような暗号解読攻撃に有効です。攻撃者はあらかじめ、一般的なパスワードやランダムなパスワードなど、多くのパターンのパスワードに対してハッシュ関数を計算しておきます。そして、攻撃対象のパスワードハッシュが特定された際に、あらかじめ計算しておいたハッシュ値と照合することで、元のパスワードを特定することができます。

 また、事前計算攻撃は、タイムメモリートレードオフ攻撃と組み合わせて使用されることがあります。タイムメモリートレードオフ攻撃とは、時間をかけて計算する代わりに、メモリを消費することで攻撃を加速する手法です。攻撃者はあらかじめ大量のメモリを使用して計算結果を保存しておき、攻撃時にそのメモリを使用することで、より高速な攻撃を実現します。

 事前計算攻撃に対する防御策としては、ハッシュ関数の選択肢の拡大や、ソルト(salt)の使用、ストレッチング(stretching)の実施などがあります。これらの対策により、事前計算攻撃の効果を軽減することができます。

事前計算攻撃の例として、以下のようなものがあります。

  1. ハッシュ値の事前計算攻撃
     ハッシュ関数を使用している場合、攻撃者はあらかじめ大量のデータのハッシュ値を計算しておき、攻撃対象のデータに対してそのハッシュ値が一致するものがあるかどうかを調べることができます。この攻撃は、データの機密性を保護するためにハッシュ関数が使用されている場合に特に重大な問題となります。
  2. パスワードの事前計算攻撃
     パスワードをハッシュ化して保存している場合、攻撃者はあらかじめ多数のパスワードのハッシュ値を計算し、攻撃対象のアカウントのハッシュ値が一致するパスワードを特定することができます。この攻撃は、ユーザーが弱いパスワードを使用している場合に特に有効です。
  3. 暗号化の事前計算攻撃
     暗号化を使用している場合、攻撃者はあらかじめ大量のデータを暗号化しておき、攻撃対象のデータに対してその暗号化結果が一致するものがあるかどうかを調べることができます。この攻撃は、暗号化が秘密鍵暗号方式で行われている場合に特に有効です。
  4. キャッシュサーバーの事前計算攻撃
     Webサイトにアクセスする際、キャッシュサーバーが中継することで通信の高速化を図ることがあります。攻撃者はあらかじめ多数のWebサイトにアクセスし、キャッシュサーバーが中継するデータをキャッシュしておくことで、そのWebサイトにアクセスした際にキャッシュされた情報を返すように仕向けることができます。この攻撃により、攻撃者はWebサイトにアクセスしたユーザーの情報を盗むことができます。

 事前計算攻撃の例として、Rainbow Tableと呼ばれる手法が挙げられます。Rainbow Tableは、暗号化されたパスワードとそのハッシュ値の対応表を作成し、その対応表を利用してパスワードを解読する手法です。

 具体的には、Rainbow Tableを作成する際には、ランダムな文字列を生成し、それを暗号化してハッシュ値を求めます。その後、得られたハッシュ値を元に戻すためのパスワードを総当たりで求め、そのパスワードを再び暗号化してハッシュ値を求めます。この操作を繰り返して、最終的にパスワードとハッシュ値の対応表を作成します。

 この対応表を用いて、攻撃者は暗号化されたパスワードのハッシュ値を検索し、そのハッシュ値に対応するパスワードを取得することができます。Rainbow Tableを使用することで、総当たり攻撃を行うよりも効率的にパスワードを解読することができます。

 事前計算攻撃に対する防御策としては、ソルトを利用することが挙げられます。ソルトとは、パスワードにランダムな文字列を付加してからハッシュ化することで、攻撃者が対応表を作成するのを困難にするための手法です。また、ハッシュ関数をより複雑なものにすることや、ストレッチングと呼ばれるパスワードを複数回ハッシュ化することも有効な対策となります。